ハート編
縁なし眼鏡をかけた、ちょっとおとなしそうな女子高生が、バスの二人がけの座席にひとり座って揺られている。ひざの上には白い箱がちょこんと乗っている。外は春で、桜の花びらが何枚か風に吹かれて落ちていく。きれいな光景を眺めながら彼女はボーイフレンドの住む街へと向かう。一緒に食べるショートケーキのことを少し想う。
彼女の降りる予定の停留所は川沿いの土手の道で、バス停のベンチには一組の老夫婦がバスが来るのを待って座っている。おばあさんのひざの上には、孫のためのバースデーケーキの入ったちょっと大き目の白い箱が乗せてある。今年の桜の咲きようをおじいさんと話している。あたたかくてやわらかい風が吹きぬける。
ケーキの入った箱を持っているだけで、ひとってちょっと可愛らしく見えるのはどうしてかな?デリケートなものだからついつい大事そうに抱えたりする仕草が男女とわずキュートだったりする。ケーキのあるなんでもない日常・・・でもちょっと幸せな日常。音楽が聞こえてきそうな日常。ケーキは日常の中の小さな魔法なのかも知れない。ケーキから物語や映像が浮かんでくるなら、それが“おいしいケーキ”ってことなのかも・・・。