夏のポラロイド

夏のポラロイド

夏が終わる頃の、あのせつなさが好きだ。歳を重ねていくうちに、子供の頃のような夏に対するときめきは少なくなっていくけれど、その分思い出が熟していく感じで、当時は感じなかったことに今頃気づいたり、後悔したりして、それがせつなさにつながっているのかも知れない・・・。とかなんとか、かっこいい書き出しで始めてみたがじゃあ、実際そんな素敵な特別な夏の思い出がいっぱい(H2O)あるのかというと、そうでもない。どちらかと言えば圧倒的に「なんでもなかった夏」を過ごしている比率が高い。でも若い時はもうもう夏というだけでなんとなくスペシャルだったし、暑い季節の不思議な魔法のせいで、なんでもない日々でさえドマラティック(レイン)だったように思う。

18歳の夏、僕は車の免許を取るために大分県の宇佐市という所にいた。伯父が自動車教習所の先生をしていたこともあって、約1か月間住み込みで教習所に通っていた。宇佐市の中心からやや離れた伯父の家は農家で、家の前に広々とした田んぼの風景が広がっていた。僕はその家に住む同い年のいとこと一緒に朝は田んぼの草むしりをしてから朝食を食べ、叔母さんにお弁当を作ってもらって、二人して自転車で、15分ほど走ったところにある教習所へ行く。期間が限られているから夕方までめいっぱい講習を受ける。そんな毎日の繰り返し。けれどもふるさとを遠く離れたなじみの薄い街で、ほとんどの人が僕を知らない中で過ごす夏休みは、とても特別な時間だった。

そんな日々も後半にさしかかったある日、有名な宇佐新宮という神社で夏祭りがあり、ぼくといとこは講習が終わると早速自転車を飛ばして夏祭りへと向かうことにした。「教習所の受付のお姉さんと待ち合わせしてるんだぜ」 なんてウソ吹きながら自転車を走らせるとこなんか、ほんと18のガキ。でもそれだけのことでも、何だか面白おかしかったんだ。

緑に囲まれた朱塗りの神社を中心にした広い敷地には、様々な露店が並び、間近で花火が打ち上げられたりして、人も大にぎわい。店の灯りや金魚すくいや風船がポラロイド写真で撮ったように、にじんでいてちょっと幻想的。地元の友人達と出会って話し込んでるいとこを遠めに見ながら、「あぁ、ここでは誰とも会うことがないんだ」と妙な異邦人の感覚にとらわれる。そんな、ちょっとした寂しい気分に浸りかけた時に僕はふいに声をかけられた。「こんばんわ」 それは、偶然にもさっき冗談で待ち合わせしてるんだ、なんて言ってた4つ年上の教習所のお姉さん!しかも浴衣姿!(これってドラマみたい)これにはいとこもびっくり。その後、3人でしばらく一緒に祭りを楽しむことになり、かき氷をごちそうになったりしながらひとときを過ごした。

これがドラマだと、それからの展開が素敵だったりするんだろうけど、現実は「じゃあ、また学校で!」とお姉さんはあっさり帰っちゃった。(あ〜、若いねぇ)けれども僕らとしては、そんだけのことでも楽しかったんだ。スペシャルな感じだったんだ(佐野元春の曲だけでも流しておくれ)

それが僕といとこのささやかな18の夏の思い出。後で知ったんだけど、僕のいとこは高校時代、生徒会長でバスケ部のキャプテンだったから、顔も広く、人気者だったそうだ。どうりで祭りの時、声をかけてくる知り合いが多かったわけだ。ってことはあのお姉さんも・・・。夏はやっぱりせつないよね。あれからもう20年になる。

Copy&Photo マツダシゲキ
Design 創意
prehome
Copyright BluePoolLabo&創意